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名古屋地方裁判所 昭和41年(行ウ)29号 判決 1978年7月10日

名古屋市港区南陽町大字茶屋後新田字ロノ割四五〇番地

原告

成田稔

右訴訟代理人弁護士

大友要助

外三名

名古屋市中川区西古渡町六丁目八番地

被告

中川税務署長 尾崎勇

右指定代理人

前蔵正七

外四名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

(原告)

被告が原告に対し、昭和四〇年三月四日付でなした昭和三六年分の所得税の決定並びに無申告加算税及び重加算税の賦課決定昭和三七、三八年分の所得税の決定及び重加算税の賦課決定(但し、昭和三八年分については裁決により一部取消後の分)いずれも取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文と同旨。

第二主張

(原告)

請求原因

一、被告は原告に対し、昭和四〇年三月四日付で原告の昭和三六乃至三八年分所得税につき、別紙(一)課税処分表の「決定または賦課決定額」欄記載のとおりの所得税決定並びに無申告加算税及び重加算税の賦課決定をした

原告は、右決定に対し昭和四〇年四月二日被告に異議申立をしたところ、被告から右申立を審査請求として取扱うことの同意を求められたので、原告はこれに同意した。

名古屋国税局長は昭和四一年四月一八日付で、昭和三六、三七年分については、審査請求を棄却する裁決を、昭和三八年分については、別紙(一)課税処分表の「裁決額」欄記載のとおりの裁決をなし、原告は同月二三日その旨の通知を受けた。

二、しかし、原告には別紙(一)課税処分表掲記の如き所得はなく、従って、本件処分はいずれも違法であるからその取消を求める。

(被告)

請求原因に対する認否

請求原因一、の事実は認める。同二、は争う。

被告の主張(本件各処分の適法性)

一、原告は名古屋市港区南陽町において農業及び不動産仲介業を営むとともに、株式会社名古屋不動産取引会(以下「取引会」という。)その他の会社の役員をしていた者である。

二、原告の本件係争各年分の総所得金額は

昭和三六年分 一、五三六万一、九八二円

昭和三七年分 一、一七三万三、五二八円

昭和三八年分 二、三〇五万五、七四二円

であるが、その内訳は次のとおりである。

(昭和三六年分)

(一)  営業所得 一、五三〇万四、五三二円

1 総収入金額 七、三九一万二、〇五〇円

(1) 仲介手数料 一八〇万円

原告は、岩田嘉七所有の名古屋市中村区志摩町五の一六の五の宅地及び同区上笹島町四八の八の宅地を名古屋鉄道株式会社(以下「名鉄」という。)に売却する仲介をして八〇万円を得、斉藤葭一所有の同区椿町四の二、二二二の一の宅地を名鉄に売却する仲介をして一〇〇万円を得た。

(2) 名鉄への土地売却代金七、二一一万二、〇五〇円

名鉄は、昭和三六年はじめ頃、愛知県知多郡武豊町警固山地区、同町別曾池地区及び常滑市小鈴谷地区の土地の買収計画をたて、原告に「名鉄」の名を出さないことを条件として右土地の買収を依頼した。そこで原告は昭和三六年から同三八年にかけて、直接あるいは不動産業者籾山弥八(以下「籾山」という。)を通じて、別紙(二)物件別売却価格及び買入価格明細表記載の所有者より同表記載の土地(以下「本件土地」という。)を買受け、これを名鉄に売却した。

昭和三六年に原告が名鉄に売却した土地及びその価額の明細は、同表の昭和三六年度分に記載のとおりであって、その総売上額は七、二一一万二、〇五〇円である。

2 総必要経費 五、八六〇万七、五一八円

(1) 売上原価 五、五三二万二、五六八円

原告の本件土地の仕入金額については、原告と籾山間の取引価額を裏付けるべき各種の原始記録の作成、受領、保存が全くなく、また取引の決済が現金で行われており、かつ、被告の調査に際して、原告の協力が何ら得られなかったとともに、籾山は各地主との土地売買契約に際して、地主にその希望した課税対策上の譲渡(受)金額による売買契約書、領収書及び領収金額の記載のない領収書等を地主に作成せしめてこれを受領したうえ、原告に交付している状況で、その実額を把握することが不可能であったため被告は、やむを得ず、籾山の地主からの仕入金額に、同人の本件土地の売買利益に相当する金額を加算した額と認定した。原告の期首、期末の商品たな卸高はいずれも零であるので、仕入金額が売上原価となる。

なお、籾山の仕入金額については、前記の状況であったので、被告はやむを得ず右実額を確認し得るものについては地主等に対して調査を行って確認に努めるとともに確認できないものについては確認できた資料等から籾山と各地主間における同時期、同地域における最高取引価額を採用して合理的な推計方法により算定した。

而して、昭和三六年中における原告の本件土地の仕入価額(売上原価)は、別紙(二)物件別売却価格及び買入価格明細表の昭和三六年度分の仕入額欄記載のとおりの価額合計四、八八〇万四、八〇〇円に、籾山の売買利益に相当する金額六五一万七、七六八円を加算した五、五三二万二、五六八円である。

(2) 慰労費 一二万円

(3) 接待交際費 三六万円

(4) 見学費 一八万円

(5) 測量費 五万円

(6) 消耗品費 一八万円

(7) 福利厚生費 一七万円

(8) 会合費 二〇万円

(9) 雑費 二〇二万四、九五〇円

原告は名鉄から立木補償金という名目で、本件土地買収の手数料として、

昭和三七年二月二〇日 二一六万三、三〇〇円

昭和三八年一月三〇日 一九九万二、〇〇〇円

昭和三九年一月三一日 三〇〇万円

合 計 七一五万五、三〇〇円

を受領したが、右補償金を受領したのは取引会であるとして、取引会の名で申告をし、納税した。

当時、取引会は完全に原告の支配下にあり、株主は原告一人という法人であったし、前期立木補償金は名鉄から原告に支払われ、その後原告から取引会に支払われた(帳簿上の処理)にすぎないので、前記立木補償金を買収した土地の昭和三六年から同三八年までの売上額に基づいて按分して得た額を各年分の原告の必要経費に計上した。

而して昭和三六年分は二〇二万四、九五〇円

である。

なお、被告のなした立木補償金についての以上の処理は一応取引会という法人の行為計算を是認してなしたものであるが、このような場合、法人の行為計算を否認して処理する方法もあるところ、その場合の租税負担は別紙(三)立木補償金についての計算方法1に記載のとおりであって、被告のした処理方法による租税負担より高くなる。

取引会の実態が前記の如きものであること等から、取引会の法人格を否認することも考えられたが、なお疑問の点もあったので、被告は、法人格を一応是認し、かつ二重課税排除の問題を考慮して前記の如き処理をした。

3 従って、原告の昭和三六年分営業所得は総収入金額七、三九一万二、〇五〇円より総必要経費五、八六〇万七、五一八円を控除した一、五三〇万四、五三二円である。

(二)  農業所得 一万六、二〇〇円

(三)  配当所得 四万一、二五〇円

(四)  右のとおりであって、原告の昭和三六年分総所得金額は一、五三六万一、九八二円である。

(昭和三七年分)

(一)  営業所得 一、一六二万九、六九八円

1 総収入金額 六、八五七万九、六六〇円

(1) 名鉄への土地売却代金六、六四一万六、三六〇円

原告が昭和三七年中に名鉄に売却した本件土地及びその価額の明細は別紙(二)物件別売却価格及び買入価格明細表の昭和三七年度分に記載のとおりであり、その総売上額は六、六四一万六、三六〇円である。

(2) 立木補償金 二一六万三、三〇〇円

前記のとおり原告は昭和三七年二月二〇日名鉄から二一三万三、三〇〇円を受領した。

2 総必要経費 五、六九四万九、九六二円

(1) 売上原価 五、三三八万四、五八四円

原告の昭和三七年中における本件土地の仕入価額(売上価額)は別紙(二)物件別売却価格及び買入価格明細表の昭和三七年度分の仕入額欄記載のとおりの価額合計四、八五八万一、四五〇円に、籾山の売買利益に相当する金額

四八〇万三、一三四円を加算した五、三三八万四、五八四円である。

(2) 登記料 一七万五、〇〇〇円

(3) 慰労費 一二万円

(4) 接待交際費 二四万円

(5) 見学費 三万円

(6) 測量費 五万円

(7) 消耗品費 一二万円

(8) 福利厚生費 七万円

(9) 会合費 一〇万円

(10) 雑費(立木補償金の必要経費計上分) 一八六万〇、三七八円

算定根拠は次のとおりである。

(11) 埋立費 八〇万円

3 従って、原告の昭和三七年分営業所得は総収入金額六、八五七万九、六六〇円より総必要経費五、六九四万九、九六二円を控除した一、一六二万九、六九八円である。

(二)  農業所得 六万三、三三〇円

(三)  配当所得 四万〇、五〇〇円

(四)  右のとおりであって、原告の昭和三七年分総所得金額は一、一七三万三、五二八円である。

(昭和三八年分)

(一)  営業所得 二、二九三万二、九八二円

1 総収入金額 一億三、八二四万四、一〇〇円

(1) 名鉄への土地売却代金一億三、六二五万二、一〇〇円

イ 原告は、昭和三八年五月、名古屋市西区松前町三の三三の宅地を七九六万四、八〇〇円で、同町三の三四の一の宅地及び建物を一、一六四万九、二〇〇円で名鉄に売却した。

ロ 原告が昭和三八年中に名鉄に売却した本件土地及びその価額の明細は別紙(二)物件別売却価格及び買入価格明細表の昭和三八年度分に記載のとおりであり、その売上総額は一億一、六六三万八、一〇〇円である。

(2) 立木補償金 一九九万二、〇〇〇円

前記のとおり原告は名鉄から昭和三八年一月三〇日一九九万二、〇〇〇円を受領した

2 総必要経費 一億一、五三一万一、一一八円

(1) 売上原価 一億一、一〇五万三、五四六円

イ 原告は、前期1(1)イ記載の名古屋市西区松前町所在の不動産を合計一、八一〇万八、〇〇〇円で買受けた。

ロ 原告の昭和三八年中における本件土地の仕入価額(売上原価)は、別紙(二)物件別売却価格及び買入価格明細表の昭和三八年度分の仕入額欄記載のとおりの価格合計八、四八八万五、六五〇円に、籾山の売買利益に相当する金額

八〇五万九、八九六円を加算した九、二九四万五、五四六円である。

(2) 登記料 七万五、〇〇〇円

(3) 慰労費 一二万円

(4) 接待交際費 二四万円

(5) 見学費 三万円

(6) 測量費 五万円

(7) 消耗品費 二二万円

(8) 福利厚生費 七万円

(9) 会合費 一〇万円

(10) 雑費(立木補償金の必要経費計上分) 三二六万九、九七二円

算定根拠は次のとおりである。

(11) 支払利息 八万二、六〇〇円

3 従って、原告の昭和三八年分営業所得は総収入金額一億三、八二四万四、一〇〇円より総必要経費一億一、五三一万一、一一八円を控除した二、二九三万二、九八二円である。

(二)  農業所得 八万三、〇一〇円

(三)  配当所得 三万九、七五〇円

(四)  右のとおりであって、原告の昭和三八年分総所得金額は二、三〇五万五、七四二円である。

三 本件各加算税の賦課根拠は次のとおりである。

(一)  原告は、被告が昭和四〇年三月四日付で本件処分をなすまでに昭和三六年分所得税の確定申告書を提出せず、また昭和三七、三八年分についても、それぞえ法定申告期限である昭和三八年三月一五日、同三九年三月一五日までに所得税確定申告書を提出しなかった。

(二)  原告は、昭和三六年より同三八年まで前記のとおりの所得を得たにも拘わらず、次のとおり事実を仮装隠ぺいし、その所得税を免かれていた。

1 原告は、昭和三六年に得た前記仲介手数料一八〇万円の受領名義を当時休業中で事業活動を全く行っていなかった大和土地建物株式会社(以下「大和土地」という。)とし、あたかも右仲介手数料の所得者が大和土地であるかの如く仮装隠ぺいした。

2 原告は昭和三六年より同三八年にかけて、本件土地の売買により収入を得ていたところ、右売買に関連して、名鉄より右土地の売買に先だち前受金を受領したうえ、売買の都度前受金と土地代金とを相殺してきたが、右前受金を原告名義以外の預金口座、すなわち三井銀行名古屋駅前支店、三井信託銀行名古屋支店の日本鑑札株式会社名義の口座にその大部分を預け入れて、あたかも右土地代金の所得者が原告以外の者であるかの如く、仮装、隠ぺいした。さらに地主と売買契約を締結するに際して籾山を介して、各地主から実際の売買金額を下廻る金額を記載した領収書と領収金額白地の領収書の二通を作成交付させ、その後原告が右白地の領収書に、名鉄への販売価額に一致させるよう金額を補充記載して、あたかも右二通の領収書の合計金額が地主からの購入金額であつて、その売買には差益がないかの如く仮装し隠ぺいした。

3 原告は、前記のとおり、昭和三八年において、西区松前町所在の不動産の売買により利得を得たにも拘わらず、所得税を免れる目的で所得税の確定申告書を提出せず、右所得を隠ぺいした。

四 以上の通りであつて、本件各処分(但し昭和三八年分については裁決により取消後のもの)には何ら違法はない。

(原告)

被告の主張に対する認否

一  被告の主張一の事実は認める。

二  同二のうち立木補償金については取引会の名で申告し、納税したこと、取引会が原告の支配下にあり、株主は原告一人であつたこと、原告に被告主張の農業所得、配当所得があつたことは認める。

原告が被告主張の仲介手数料を得たこと、原告が本件土地及び西区松前町所在の不動産を買収し、これらを名鉄に売却したこと、原告が被告主張の立木補償金を得たこと、原告が被告主張の営業所得を得たことはいずれも否認する。

三  同三(一)の事実は認める。

同(二)の事実は否認する。

原告の反論

一  岩田嘉七、斉藤葭一所有の土地を名鉄に売却する仲介をしたのは大和土地であり、同社が被告主張の手数料を受領した。右手数料については同法人において申告ずみである。

また、被告は右手数料については本件決定処分及び審査裁決の時点では何ら問題とせず、法定申告期限である昭和三七年三月一五日から五年を経過した昭和四二年三月二八日の準備手続期日においてはじめてこれを主張するに至つたものであるが、かかる主張は除斥期間の規定に照らして許されない。

二  本件土地買収に関する取引をしたのは原告ではなく、取引会であり、しかも、その取引の実体は売買ではなく、単なる仲介である。

すなわち、名鉄は、本件土地の買収を計画したが、名鉄が直接その名を出せば、地価の暴騰やブローカーの暗躍によって買入れに支障をきたすこと等から、あたかも原告個人が思惑買いをするかの如き形をとつて買収することを原告に依頼した。そこで、原告は、名鉄が種々調査した結果指定した価額(指値)で買収することとし、籾山等をしてこれに当らせた。籾山等は更に多数のブローカーに委嘱して本件土地を買収したのであるが、同人等がいくらで買収したのか、その間に誰がどれだけの利益をあげたかは原告には全く不明である。原告としては、名鉄の指値で籾山から本件土地を買い取ればよかつたのであり、現にそうしたのである。

従つて、原告には、売買による差益は全く存しない。

右のとおり、原告は、名鉄の指値で本件土地を買い取り、同額で名鉄にこれを売却するという形式をとつたので、名鉄は買収価額の三パーセントを仲介手数料として立木補償金という名目で原告に支払つたものである。

そして、右補償金の取得者が取引会であることは、右法人において右所得を申告納税していることからも明らかである。

更に、法人の代表者が当該法人と同一の営業を行つた場合には法人の営業とみなすべきであることからも右のことは明らかである。

また仮に、立木補償金の取得者が原告であるとしても、右所得については既に取引会において申告納税しているのであるから、更に原告に課税することは二重課税となり許されない。

三  被告の主張する地主の売値は、地主において税務署に申告した額にすぎず、事実は右額より高額である。従つて、原告が被告の主張する如き多大な差益を取得することはあり得ない。

四  昭和三八年における名古屋市西区松前町所在の不動産についても、取引会において売買の仲介をしたものであり、その手数料として名鉄から一〇〇万円を受預し、右金員から売主側の仲介人に三六万円を支払つている。

五  本件土地の買収に関し、名鉄からの預り金の預け入れについて日本鑑札株式会社名義の口座を利用したのは、取引会が設立後日が浅く、口座の開設ができなかつたためであり、また地主に対して実際の売買金額を記載した契約書や領収書を作成交付せしめたのは地主から依頼されたためであつて、被告主張のように原告が所得を仮装、隠ぺいしたものではない。

第三証拠

(原告)

甲第一号証、第二号証の一乃至八、第三号証の一乃至三、第四号証の一乃至六、第五ないし第三一号証の各一乃至三、第三二号証の一・二、第三三ないし第三五号証の各一乃至三、第三六号証の一乃至五、第三七乃至第五四号証の各一乃至三、第五五号証の一・二、第五六ないし第五九号証の各一乃至三、第六〇号証の一乃至五、第六一乃至第七二号証の各一乃至三、第七三号証、第七四乃至第八五号証の各一乃至三、第八六号証、第八七号証の一・二、第八八、八九号証の各一乃至三、第九〇号証の一・二、第九一号証の一乃至三、第九二号証の一・二、第九三号証の一乃至三、第九四号証の一乃至四、第九五号証の一・二、第九六乃至第一〇一号証、第一〇二乃至第一九五号証の各一・二、第一九六号証の一乃至一〇八(但し枝番六七は欠番)、第一九七号証の一乃至四を提出し、証人籾山弥八(第一・二回)、同籾山義夫、同小坂松延、同寺尾武、同松波喜一、同伊藤重威、同永田武夫、同近藤五六、同永田栄の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)を援用し、乙第一乃至第八号証、第四五号証、第四六号証の一・二、第四七、四八号証、第五八乃至第六二号証、第七四号証、第七五号証の一乃至二一、第七六、七七号証、第七八号証の一・二、第七九乃至第八一号証、第九八号証、第一〇五、一〇六号証の各一乃至三、第一〇七乃至第二七八号証の成立はいずれも認める。第三九号証の二のうち、官公署作成部分の成立は認めるが、その余の作成部分の成立は不知、第六三乃至第七〇号証及び第七三号証のうち各官公署作成部分及び収受印、相当印部分の成立はいずれも認めるが、各回答書部分の成立はいずれも不知、その余の乙号各証の成立はいずれも不知(但し、乙第七一、七二号証のうち収受印、担当印部分の成立は認める)、と述べた。

(被告)

乙第一乃至第一三号証、第一四号証の一・二、第一五乃至第一八号証、第一九、二〇号証の各一・二、第二一乃至第二五号証、第二六号証の一・二、第二七乃至第三八号証、第三九号証の一・二、第四〇乃至第四五号証、第四六号証の一・二、第四七乃至第七四号証、第七五号証の一乃至二一、第七六、七七号証、第七八号証の一・二、第七九乃至第一〇四号証、第一〇五、一〇六号証の各一乃至三、第一〇七乃至第二七八号証を提出し、証人岡崎昭、同酒井常雄、同寺尾武、同横井芳和、同小坂三子雄、同柴田菊一、同吉沢徳、同小坂孝作、同岡井保二、同籾山孝夫、同鈴木治郎、同森下恭七の各証言を援用し、甲第一号証、第二号証の五、八、第五九乃至第六一号証の各一、第六四乃至第六六号証の各一、第七一号証の一、第七三号証、第七七号証の三、第八二乃至第八四号証の各一、第八五号証の三、第八七乃至第九一号証の各一、第九四号証の一乃至四、第九八、九九号証、第一九七号証の一乃至四の成立はいずれも認める。第八六号証のうち官公署作成部分の成立は認めるが、その余の作成部分の成立は不知、第一〇二乃至第一九五号証の各一・二、第一九六号証の一乃至一〇八(但し枝番六七は欠番)のうち、各住所・氏名・押印部分の成立はいずれも認めるが、その余の各作成部分の成立はいずれも不知、その余の甲号各証の成立はいずれも不知、と述べた。

理由

一  請求原因一の事実及び被告の主張一の事実は当事者間に争いがない。

二  本件においては、原告が被告主張の営業所得を得たか否かが主たる争点であるので、以下この点について検討する。

(一)  昭和三六年分仲介手数料について

弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一〇二号証及び原告本人尋問の結果(第一・二回、但し後記措信しない部分を除く)によれば、原告は、岩田嘉七所有の名古屋市中村区志摩町五の一六の宅地及び同区笹島町四八の八の宅地を名鉄に売却する仲介をして、昭和三六年八月八日頃手数料として八〇万円を得たこと、更に原告は斉藤葭一所有の同区椿町四の二二二二の一の宅地を名鉄に売却する仲介をして、手数料として、同年二月一一日頃に五〇万円、同年六月二三日頃に五〇万円合計一〇〇万円を得たことが認められる。

原告は、右仲介は大和土地が行い、仲介手数料も大和土地が受領した旨供述している。

なるほど、弁論の全趣旨によれば、右仲介手数料は大和土地の名義で受領されていることが認められるけれども、成立に争いのない乙一号証によれば、大和土地は昭和二七年六月二八日に成立した会社であるが、その代表者たる原告自らが昭和三八年一一月二六日昭和税務署法人税課第四係井坂事務官に対して「大和土地は目下休業中である」旨の回答書を提出していること、更に成立に争いのない乙第二号証によれば、同人は昭和三九年四月二〇日昭和税務署長に対して、「大和土地は設立後間もなく営業休止状態であったところ、同年四月一日より営業を復活する」旨の届出をしていること、がそれぞれ認められ、右各事実によれば、昭和三六年当時、大和土地は休業中で事業活動を全く行つていなかつたものと認められるから、原告は、右仲介手数料を隠ぺいすべく受領者名義を大和土地と仮装したものと認めざるを得ず、原告の前記供述は措信し難い。

他に前記認定を覆すべき証拠はない。

原告は、右仲介手数料については大和土地において法人税の確定申告をした旨主張するが、右事実を認むべき証拠はない。

更に、原告は、右仲介手数料については、被告において本件決定処分及び審査裁決の時点で問題とせず法定申告期限より五年以上を経過した時点の本訴係属中にはじめて主張するに至つたもので除斥期間によつて行使が制限せられる所得税法上の課税権(更正権、賦課決定権)は、別に定めのある場合を除き、暦年に従い、一年を単位として、その年に収入すべき所得の総額を対象に発生するもので、これに伴い除斥期間も当該年分の法定の申告期限(ないしは申告書の提出期限)から起算すべきものとされているのであるから、その年の所得の総額を構成する個々の所得について除斥期間の経過を言う原告の主張は採用し難い。また、訴訟で争われている処分で決定された税額を維持するため、決定処分及び審査決定の当時主張していなかつた事実を主張することは何ら違法ではなく、またこれらの事実に基づいて右処分の当否を判断することも差支えないと解すべきであるから(同旨、最高裁昭和四二・九・一二判決参照)、この点についても原告の右主張は採用できない。

(二)  本件土地の取引について

前掲乙第一〇二号証、成立に争いのない甲第七三号証、同第九四号証の一乃至四、乙第四八号証、同第五九号証、同第七五号証の二乃至二一、同第八一号証、同第九八号証、同第一〇七乃至第二七八号証、証人籾山弥八、同籾山義扶、同小坂松延の各証言(更に甲第四号証の一乃至六については証人永田栄、同第三二号証の一・二については証人吉沢徳、同第三三号証の一乃至三については証人森下恭七、同第五一号証の一乃至三については証人小坂三子雄、同第六二号証の一乃至三については証人鈴木治郎の各証言)により成立の認められる(但し、甲第五九乃至第六一号証の各一、同第六四乃至第六六号証の各一、同第七一号証の一、同第七七号証の三、同第八二乃至第八四号証の各一、同第八五号証の三、同第八七乃至第九一号証の各一については成立に争いがない。)甲第三号証の一乃至三、同第四号証の一乃至六、同第五乃至第三一号証の各一乃至三、同第三二号証の一・二、同第三三乃至第三五号証の各一乃至三、同第三六号証の一乃至五、同第三七乃至第五四号証の各一乃至三、同第五八、五九号証の各一乃至三、同第六〇号証の一乃至五、同第六一乃至第七二号証の各一乃至三、同第七四乃至第八五号証の各一乃至三、同第八七号証の一・二、同第八八、八九号証の各一乃至三、同第九〇号証の一・二、同第九一号証の一乃至三、同第九二号証の一・二、同第九三号証の各一乃至三、同第九五証の一・二、いずれも住所・氏名・押印部分の成立につき争いがなく、その余の作成部分については弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一〇二乃至第一九五号証の各一・二、同第一九六号証の一乃至一〇八(但し、枝番六七を除く。)、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第九六号証、乙第一〇一、一〇三、一〇四号証、証人籾山弥八(第一・二回)、同籾山義夫、同小坂松延、同松波喜一、同永田栄、同永田武夫、同近藤五六、同小坂三子雄、同紫田菊一、同吉沢徳、同小坂孝作同岡井保二、同鈴木治郎、同森下恭七、同籾山孝夫の各証言、原告本人尋問の結果(第一・二回、但し後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すると、名鉄は、愛知県知多郡武豊町付近に住宅及び娯楽施設の設立を企図し、広大な土地を物色していたところ、原告より本件土地の買収が可能である旨の申入れを得たため、昭和三六年はじめ頃本件土地の買収計画をたてたが「名鉄」が買収するとなると、地価が高騰するおそれがあつたため、「名鉄」の名を出さないことを条件として、原告に対し、本件土地の買収を依頼し、原告が各地主から買収した土地を順次買取ることとしたこと、名鉄は、右依頼に際し、一応の買収希望価額を指示したが、原告は地元の不動産業者である籾山に対し、名鉄の右指値とは別個に自ら設定した買収価額を指示して、昭和三六年三月から同三八年一二月までの間、同人及び同人の雇入れに籾山義夫、小坂松延らを本件土地の各地主と買収交渉をなさしめ(但し、地主加藤譲に対しては原告自らが交渉して)、別紙(二) 物件別売上価格及び買入価格明細表記載の各所有者から同表記載の各土地を買収し、これを同表記載の売却年月日に売上額欄記載の価額で名鉄に売却したこと(総売上額、昭和三六年分七、二一一万二、〇五〇円、同三七年分

六、六四一万六、三六〇円、同三八年分一億一、六六三万八、一〇〇円)、右取引に関し、名鉄は原告に対し、前渡金を前渡し、土地買入れの都度右前渡金と土地買収代金とを清算することとしていたが、原告は、籾山に右買収交渉を依頼するに当り、公租公課その他一切の負担金は原告が負担する旨を約し、各地主との売買契約に際して、地主に実際の売買金額を下廻る金額を記載した契約書と領収書及び領収金額の記載されていない領収書を作成、提出させてこれを原告に交付することを依頼し、これが交付を受けた原告は、昭和三六年分及び同三七年分の一部につき領収金額の記載されていない領収書に、領収金額の記載されている領収書と合算したものが名鉄への売却価額に合致するよう領収金額を記載し、これら二通の領収書と契約書を名鉄に提出して、名鉄からの前記前渡金を清算したこと、なお籾山は地主より原告の指値以下で土地を納入せしめ、原告には原告の指値で納入してその差額を利得していたこと、以上の事実が認められる。

原告は、本件土地の取引は取引会が行つたものであり、しかも取引の実体は名鉄の指値で本件土地を買取り、同額で名鉄にこれを売却する形式をとつたものであつて、単なる仲介にすぎず、売買差益は全く存しない旨供述している。

しかしながら、成立に争いのない甲第一号証によれば、取引会は昭和三七年五月一五日に設立されたものであることが認められるところ、前記認定のとおり本件取引は昭和三六年三月から右設立以前に既に約半数の件数が成立していること、名鉄宛の売買代金領収書(前掲甲第一九六号証の一乃至一〇八)、本件取引に関し支払われた立木補償金の領収書(成立に争いのない乙第六乃至第八号証)は原告個人の作成名義となつていること、本件土地のうち、常滑市小鈴ケ谷地区の土地及び知多郡武豊町の土地の一部につき、地主より原告に売買を原因とする所有権取得登記がなされ、その後名鉄に所有権移転登記がなされていること(前掲乙第一〇九乃至第二七八号証)、名鉄からの前記前渡金は原告の預金口座や実質上原告の預金口座である三井銀行名古屋駅前支店、三井信託銀行名古屋支店の日本鑑札株式会社名義の預金口座にその大部分が預け入れられ、その後その一部は原告や成田浪子(原告の妻)名義の預金口座に振替えられ、また原告の借入金の返済、住宅建設資金の支払い等に充てられていること(右事実は前掲乙第九八号証、同第一〇一乃至第一〇四号証、同第一〇七、一〇八号証、成立に争いのない乙第五八号証、同第一〇五、一〇六号証の各一乃至三により認める。)等及び前掲各証拠からして、原告が名鉄と本件取引を行つたことは明らかであつて、取引会が右取引を行つたとの原告の前記供述は措信し難い。

更に、前記認定のとおり、原告は地主より売買金額を下廻る金額を記載した領収書と領収金額の記載のない預収書を徴したうえ、領収金額の記載されている領収書と合算したものが名鉄に対する売却価額に合致するように右領収金額の記載のない領収書に金額を記載して、右二通の領収書を名鉄に交付しているがこれは原告が本件土地を地主より買収し、名鉄に売却したことを秘匿して、あたかも地主から名鉄に直接売却されたかの如く虚構して名鉄に対する売却価額と地主からの買収価額との差額を利得するためであつたと考えられること(原告は、地主より二通の領収書を受取つたのは地主の税金対策上その旨の要望があつたからである旨供述しているが、前記のとおり、二通の領収書を要求したのは原告であるし、単に税金対策のためだけであれば、当初から合算額が売却価額に見合うようにそれぞれ金額の記載された二通の領収書の交付を受ければ足りるのであつて、原告の右供述は措信し難い。)、原告は名鉄からの前渡金のうち一部を、借入金の返済や自己の住宅建設資金の支払いに充て、また原告名義の預金口座や成田浪子名義の預金口座に振替え、生活費や本件取引以外の支出のため多額の金員の払戻しを受けていること、原告は籾山に対し、本件取引に伴う公租公課その他一切の負担金を負担する旨約していること、原告は、加藤譲所有の土地を買受け、これを名鉄に売却することによつて、二七〇万円余の売買差益を得ていること(前掲甲第九四号証の一乃至四、乙第八一号証)、証人松波喜一(名鉄の委嘱により本件土地買入れの業務代行をしていた名鉄不動産株式会社の当時の開発係長)の証言によれば名鉄としては原告が本件取引により売買差益を得ることを当然の前提とし、経費等もそれによつて賄わせることとしていたことが認められること、後記(三)に認定のとおり原告は、本件取引に関し、名鉄より立木補償金なる名目で手数料の支払いを受けているが、同証人の証言によれば、右手数料の支払いは当初から約束されていたものではなく、ある程度買収が進行した時点になつて原告から経費がかかるとの申出があり、名鉄としても迅速な買収を図るためには止むを得ないとして、後日になつて支払うこととなつたものと認められることからしても、原告、名鉄間の本件取引が単なる仲介にすぎず、売買差益は全くなかつた旨の原告の前記供述は措信し難い。

他に前記認定を覆すべき証拠はない。

そこで進んで、原告の本件土地の仕入金額について検討する。

前掲乙第四八号証、証人岡崎昭の証言により成立の認められる乙第九乃至第四四号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第八三乃至第九七号証、証人寺尾武、同岡崎昭、同横井芳和、同籾山弥八(第一・二回)の各証言によれば、籾山の原告に対する本件土地(但し、加藤譲の所有土地を除く。)の納入価額を裏付けるべき原始記録の作成、受領、保存が全くなく、また取引の決済が現金で行われており、かつ、被告の調査に際して原告の協力が得られなかつたこと、前記認定のとおり、籾山は各地主との売買契約に際して、実際の売買金額を下廻る金額を記載した契約書と領収書及び領収金額の記載されていない領収書を作成せしめてこれを原告に交付している状況にあつたため、被告としては、原告の仕入実額を把握することが不可能であつたこと、そのため、被告は、各地主に対して面談し、あるいは文書による照会等を行つて各地主の譲度金額の確認に努めるとともに、確認できなかつたものについては確認できた資料から籾山と各地主間との取引における同時期、同地域における最高取引価額を採用して、籾山の各地主からの仕入価額を推計し、右金額に資産増減法により算出された籾山の本件取引に伴う収益を加算したものを原告の本件土地仕入価額と推計したことが認められる。

右認定の事情に照らすと、被告が行つた原告の本件土地仕入価額の推計方法はやむを得ないものであり、かつ合理的なものと認め得る。

而して、前掲乙第八三乃至第九七号証、成立に争いのない乙第七八号証の一並びに証人小坂三子雄、同小坂孝作、同岡井保二、同鈴木治郎、同永田栄、同吉沢徳の各証言によれば、地主である小坂三子雄、中村倉次、紫田清松、永田常吉、川合九平、岩田勇夫、厚味富次、森田九一、小坂和典、片岩信夫、東正平、中川寅夫、稲葉敏幸、小坂孝作、岡井保二、鈴木治郎、永田栄、吉沢徳は別紙(二)物件別売却価格及び買入価格明細表記載の各所有土地を同表仕入額欄記載の金額で籾山に納入したことが認められ、これに反する証拠はない。そして右事実に、籾山と各地主間において同時期に取引された同地域の土地については売買価額もほぼ同一であつたこと(この事実は前掲乙第四八号証及び証人籾山弥八、同籾山義夫の各証言により認める。)、籾山は昭和四五年八月名古屋国税局の調査に対し、籾山の各地主からの仕入額が別紙(二)物件別売却価格及び買入価格明細表の仕入額欄記載のとおりであつたことを認めていること(この事実は前掲乙第四八号証により認める。)を併せ考慮すると、前記以外の地主(加藤譲を除く)も各所有土地をほぼ同表仕入額欄記載の金額で籾山に納入したものと認めるのが相当である。

以上の認定を左右すべき証拠はない。

次に、証人酒井常雄、同寺尾武、同横井芳和の証言及び同証言により成立の認められる乙第四九乃至第五七号証並びに証人籾山弥八の証言(第一・二回)によれば、籾山は、本件取引により、昭和三六年分六五一万七、七八六円、同三七年分四八〇万三、一三四円、同三八年分八〇五万九、八九六円の収益を得たことが認められ、これに反する証拠はない。

なお前掲乙第八一号証及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告は加藤譲所有の土地(常滑市小鈴ケ谷字細谷一の一七山林外一六筆)を一、六二一万六、八〇〇円で買受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

以上総合すると、原告の本件土地の仕入価額は、昭和三六年分五、五三二万二、五六八円、同三七年分五、三三八万四、五八四円、同三八年分九、二九四万五、五四六円となり、弁論の全趣旨によれば、原告の期首、期末における商品たな卸高はいずれも零であることが認められるから、右仕入金額が売上原価となる。

もつとも、籾山の、地主吉田幸蔵、紫田伸八、原田儀太郎、川合九平からの仕入金額は他に比して低廉であるが、前掲乙第五二乃至第五七号証及び証人籾山弥八の証言(第二回)によれば、右地主の所有土地については、籾山が自己の資金で買受け、これを相当期間経過してから原告に売却したものであるところ、右各土地については、籾山の期末たな卸資産として計上され、籾山の所得計算に反映していること、従つて、原告の所得計算において籾山の右差益は原告の売上原価に反映していることが認められるから、原告の前記売上原価に何ら変動はない。

(三)  立木補償金について

前掲乙第六乃至第八号証によれば、原告は名鉄より立木補償金なる名目で、本件土地買収の手数料として昭和三七年二月二〇日二一六万三、三〇〇円、同三八年一月三〇日一九九万二、〇〇〇円、同三九年一月三一日三〇〇万円合計七一五万五、三〇〇円を受領したことが認められる。

原告は、右立木補償金は取引会が取得したものである旨主張し、原告本人尋問の結果中には、右に副う供述部分があるが、右乙号証(領収書)の受領名義が原告となつていること、前記(二)に判示のとおり本件取引は取引会ではなく、原告が行つたものであることからして、原告の右供述部分は措信し難く、他に右認定を左右すべき証拠はない。

ところで、原告が右立木補償金については取引会の名で申告し、納税したことは当事者間に争いがない。

これにより、原告は、右立木補償金について更に原告に課税することは二重課税となるのであつて許されない、と主張する。しかしながら被告は、右立木補償金(昭和三七年分二一六万三、三〇〇円、同三八年分一九九万二、〇〇〇円、同三九年分三〇〇万円)を各年分の原告の所得としているとは言え、原告が右立木補償金を受領していながら帳簿上取引会に支払つた旨の処理をしていたところから(成立に争いのない乙第四五号証)、右法人の行為計算を一応是認して、これら立木補償金の総額を昭和三六年から同三八年までの本件土地の売上額に基づいて按分し(昭和三六年分二〇二万四、九五〇円、同三七年分一八六万〇、三七八円、同三八年分三二六万九、九七二円)、その全額を原告の必要経費として、その差を零としているのであるから、かかる計算方法によれば、右立木補償金については実質的に課税されていないことになるのであつて、二重課税であるという原告の主張は採用し難い。

(四)  西区松前町所在の不動産の取引について

成立に争いのない乙第三乃至第五号証、同第七六、七七号証及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告は、昭和三八年五月頃曹圭昌、李政子所有の名古屋市西区松前町三の三三宅地一三八・五七m2と株式会社豊田化学工業所所有の同町三の三四の一宅地一九三・九八m2及び地上建物を合計一、八一〇万八、〇〇〇円で買受け、同年五月九日に西区松前町三の三三の宅地を代金

七九六万四、八〇〇円で、同月八日に同町三の三四の一の宅地と地上建物を代金

一、一六四万九、二〇〇円でそれぞれ名鉄に売却したことが認められる。

原告本人尋問の結果中、右認定に反する供述部分(右取引は取引会において仲介したしたものにすぎず、その仲介手数料は一〇〇万円である旨の供述部分)は前掲各書証に照らして措信し難く、他に右認定を覆すべき証拠はない。

なお原告は、売主側の仲介人に手数料として三六万円を支払つた旨主張し、右主張に副う供述をしているが、これを裏付けるべき資料はなく、右主張は採用できない。

(五)  本件各係争年における原告の諸経費(慰労費、接待交際費、見学費、測量費、消耗品費、福利厚生費、会合費、登記料、支払利息、埋立費)が被告主張額であることについて、原告は明らかに争わないから、自白したものとみなす。

以上を総合すると、本件各係争年における原告の営業所得金額は次のとおりである。

(昭和三六年分)

総収入金額 七、三九一万二、〇五〇円

仲介手数料 一八〇万円

名鉄への土地売却代金 七、二一一万二、〇五〇円

総必要経費 五、八六〇万七、五一八円

売却土地の売上原価 五、五三二万二、五六八円

立木補償金の必要経費計上分 二〇二万四、九五〇円

その他の諸経費 一二六万円

営業所得金額 一、五三〇万四、五三二円

(昭和三七年分)

総収入金額 六、八五七万九、六六〇円

名鉄への土地売却代金 六、六四一万六、三六〇円

立木補償金 二一六万三、三〇〇円

総必要経費 五、六九四万九、九六二円

売上土地の売上原価 五、三三八万四、五八四円

立木補償金の必要経費計上分 一八六万〇、三七八円

その他の諸経費 一七〇万五、〇〇〇円

営業所得金額 一、一六二万九、六九八円

(昭和三八年分)

総収入金額 一億三、八二四万四、一〇〇円

名鉄への土地売却代金 一億三、六二五万二、一〇〇円

本件土地分 一億一、六六三万八、一〇〇円

西区松前町の不動産分 一、九六一万四、〇〇〇円

立木補償金 一九九万二、〇〇〇円

総必要経費 一億一、五三一万一、一一八円

売却土地の売上原価 一億一、一〇五万三、五四六円

本件土地分 九、二九四万五、五四六円

西区松前町の不動産分 一、八一〇万八、〇〇〇円

立木補償金の必要経費計上分 三二六万九、九七二円

その他の諸経費 九八万七、六〇〇円

営業所得 二、二九三万二、九八二円

三  本件各係争年において原告に被告主張の農業所得及び配当所得があつたことは当事者間に争いがないから、前項の営業所得を加算すると、原告の本件各係争年における総所得金額は次のとおりとなる。

昭和三六年分 一、五三六万一、九八二円

昭和三七年分 一、一七三万三、五二八円

昭和三八年分 二、三〇五万五、七四二円

そして、被告の主張三(一)の事実は当事者間に争いがなく同(二)1乃至4の各事実は前記二において認定のとおりであつて、原告は本件各係争年における前記所得を仮装、隠ぺいし、その所得税を免れていたものである。

右事実関係によれば、原告の納付すべき本件税額、無申告加算税、重加算税は別紙(四)税額計算表記載のとおりとなる。

四  そうすれば、前項記載内容の範囲内でなされた本件各係争年分の所得税の決定並びに無申告加算税及び重加算税の賦課決定処分(但し昭和三八年分については裁決により一部取消後のもの)はいずれも適法であつて、原告の主張は理由がない。

よつて原告の本訴請求を失当として棄却すべく、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決した。

(裁判長裁判官 藤井俊彦 裁判官 浜崎浩一 裁判官 山川悦男)

別紙(一)

課税処分表

別紙(二)

物件別売却価格及び買入価格明細表

一 昭和三六年度分

(参考) 1. 字名欄のカル田は愛知県知多群武豊町大字富貴に所在する。

2. 〃 深谷は 〃

3. 〃 南曾原は 〃

(以下昭和三七、三八、年分について同じ)

二 昭和三七年分

(参考) 1. 字名欄の黒山は武豊町大字富貴に所在する。

2. 〃 下別曾は 〃

3. 〃 中田は 〃

4. 〃 沢 は常滑市小鈴谷に所在する。

5. 〃 細谷は 〃

6. 〃 奥沢は 〃

(以下昭和三八年分に同じ)

三 昭和三八年分

別紙(三)

立木補償金についての計算方法

別紙(四)

税額計算表

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